![]() |
日本を取り巻く内外情勢は大きく変化しており、それに対応する国家戦略が必要である。暮らしや経済を支えるエネルギーについても激動の内外情勢に即したエネルギー政策の実行が不可欠である。本稿ではその問題意識に基づき、2つの視点から今後の日本にとって重要となるエネルギー政策に関わる問題を論ずる。 第1の課題はトランプ2・0への対応である。2025年1月の政権発足直後から異例のペースで多数の大統領令を発し、トランプ大統領は国際政治、世界経済、地政学情勢、安全保障問題などの面において世界を揺さぶってきた。国際エネルギー情勢もトランプ2・0の影響で激震に晒されている。 トランプ2・0の下で、米国の石油・ガス・LNG供給が拡大することは国際エネルギー市場の安定化につながることも期待できる一方、関税政策の深刻な影響で世界経済が減速し、エネルギー価格の低下がもたらされるなどの影響にも注目が集まっている。他方、イランに対する「最大限の圧力」をかけるトランプ2・0の下、イラン情勢の行方も国際エネルギー情勢を左右するポイントとなる。圧力を掛けつつ核協議を進めようとする米国が場合によっては軍事力行使もありうることを示唆するなど先行き予断は許されない。ウクライナ戦争の行方、米国にとって最も重要な競争相手となる中国への対応戦略などもエネルギー情勢や経済安全保障問題に大きな影響を及ぼす。今後のトランプ2・0による国際エネルギー情勢への影響を見極め、日本の国益のためのエネルギー政策を展開することが求められる。 しかし、より直接的にトランプ2・0への対応に関連するエネルギー問題として、日米エネルギー協力に関わる課題がある。日本にとって極めて重大な問題となっている相互関税や自動車関税などを巡る日米協議においてエネルギー問題が重要な要素として取り上げられる可能性があるからである。その背景には、2月の日米首脳会談で日米協力深化の重要なポイントとしてエネルギー協力が重視されたことがある。 第2に、長期的なエネルギー政策課題として、2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画(以下、基本計画)の実行に関わる問題がある。この基本計画のポイントは、新情勢に対応したエネルギー安全保障の強化を特に重視したことである。ウクライナ危機後の国際エネルギー情勢の不安定化を強く意識した政策となったことも重要だが、特筆すべきは電力安定供給確保を最優先課題としたことであろう。 日本にとっての最優先は、原子力の再稼働と既存炉の有効活用であろう。また長期を見据えて建替えなどに取り組む必要がある。安全性を確保し、国民理解を得て既存炉を中心に原子力の有効活用を図ることは、電力需要を安定的に、競争力ある価格で、脱炭素電力を供給する重要な対策となる。だからこそ、基本計画では原子力と再エネをともに「最大限活用する」と位置付けることとなった。従来の基本計画では原子力への依存度を「可能な限り低減する」としていたことから重大な方針転換を行ったのである。 最大の電源となるべく重視された再エネの拡大を進め、合わせて供給変動に対応する蓄電システムや連系線(電力系統同士をつなぐ送電線)強化を適切に実施していくことも重要である。引き続き重要な役割を担う火力発電については、脱炭素化を着実に進めつつ、LNGの長期契約確保など、燃料安定供給対策も必要となる。また電力自由化の中で、必要な供給力や予備力を適切に確保するための制度整備なども重要となり、まさに電力安定供給確保に向けた総力戦に臨む必要がある。これらはまさに基本計画実行の最重要の要である。 【速報版】 令和7年5月19日 週刊「世界と日本」NO.2293号より |
|