昨年10月の衆議院総選挙で自民党が惨敗、その結果、安倍晋三政権が残した貴重な遺産「3分の2の改憲勢力」は失われ、衆議院憲法審査会の会長ポストまで立憲民主党に明け渡すことになった。
堂々巡りの憲法審査会
憲法審査会の運営方針は、枝野幸男会長のもと与党筆頭幹事の船田元氏と野党筆頭幹事の武正公一氏の話し合いで決まる。ところが、行司役のはずの枝野会長まで立憲寄りの発言に終始するため、一向に改憲発議に向けて動き出す気配は見られない。審査会での議論も堂々巡りをするばかりだ。
そのような中、5月15日の衆院幹事懇談会において、船田幹事から憲法改正原案を作成する条文起草委員会設置の提案がなされた。しかし、武正幹事はこれに応じず、結局、起草委員会は設置できなかった。 自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、それに有志の会の5会派間では、「緊急事態における議員任期の延長」についておおむね一致しているほか、「自衛隊の憲法明記」についてもゆるやかな合意が成立しつつある。 それ故、憲法審査会の中に原案起草委員会が設置されれば、改憲に向けた大きな前進が期待できるはずだが、それさえ叶わないというのが国会の現状だ。 この現状を打破して改憲論議を進め、憲法改正原案を国会に提出するためにはどうすれば良いのか。 自衛隊の憲法明記を急げ
自衛隊については、かねてより自民党と日本維新の会が「第9条の2」に「自衛のための実力組織として自衛隊を保持する」旨、明記する案を主張している。これに対して、公明党は内閣総理大臣の権限を定めた第72条に「自衛隊を明記」し、内閣によるシビリアンコントロールを強調するよう、提案してきた。他方、国民民主党は、玉木代表が9条2項改正論者であり、自衛隊の憲法明記については消極的であった。
このような中で開催された6月5日の衆議院憲法審査会において、国民民主党の浅野哲議員は次のように述べている。「わたしたち国民民主党は、平和主義を堅持した上で、自衛隊の存在を憲法上正当化する規定を設け、その行使範囲も明文化することで、憲法と現実とのねじれを正面から解決すべきと考えています。」これは画期的な発言であり、「自衛隊の憲法明記」案がさらに現実味を帯びてきたといえよう。 今年3月の滋賀県議会において、共産党の県議が「自衛隊の訓練」を「人殺しの訓練」と批判した。共産党からはこれまでも「自衛隊」について「人殺しの部隊」とか「人殺しの予算」といった発言が繰り返されてきた。このような暴言は勿論誰であろうと許せないが、特に公党たる共産党の県議や国会議員による公の場での発言とあっては、絶対に放置するわけにはいかない。 自衛隊員は、台湾有事に備えて、日本国と国民を守るため連日猛烈な訓練を続けており、今必要なのは国民の精神的な支援である。さらに必要なのは、自衛隊の名誉の回復である。 自衛隊員の劣悪な待遇改善は勿論不可欠である。しかし、それ以前にまず必要なのは、このような自衛隊員に対する誹謗中傷がなされないように、自衛隊の保持を憲法に明記し、違憲の疑いを晴らすことである。そして自衛隊員に名誉を与えることである。それがなされなかったら、自衛隊が、今後、優秀な人材を集め続けていくのは難しくなるのではなかろうか。一昨年(令和5年)は、2万人の隊員募集に対して、1万人しか集まらなかったと聞く。これは大変な事態であり、自衛隊の憲法明記はまさには喫緊の課題といえよう。
超党派議員で原案づくりを
次に、憲法改正案の原案を作成し国会に提出する方法だが、憲法審査会のもとに条文起草委員会を設置することが難しい中、いかにすべきか。そのためには憲法審査会と別に、衆議員議員100名ないし参議院議員50名以上の賛成によって憲法改正原案を国会に提出する方法、いわゆる「議員立法方式」がある。
憲法改正原案を国会に提出する権限は、第一義的には国会議員にある。つまり国会法によれば、衆議院では100人以上、参議院では50人以上の議員の賛成があれば、憲法改正原案を国会に発議することができる(国会法68条の2)。 もちろん憲法審査会にも提出権は認められているが、それはあくまで国会議員の提出権に準ずるものだ。なぜなら国会法第6章の2は「日本国憲法の改正の発議」となっているが、その冒頭第68条の2には「議員が日本国憲法の改正原案を発議〔国会に提出〕するには、…衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する」と明記されているからだ。 これに対して、憲法審査会による憲法改正原案の提出権については、ずっと後の第11章の2「憲法審査会」の中で、憲法審査会も「憲法改正原案…を提出することができる」(第102条の7)と規定されているだけである。また、「提出できる」という表現からしても、議員による提出権が優先されていることは間違いない。 さらに総務省発行の「国民投票の流れ」を解説した資料(フローチャート)でも、「憲法改正原案の発議権者」として載っているのは、国会議員だけだ。 それ故、従来、憲法改正原案を提出できるのは憲法審査会だけであり、そのためには審査会のもとに「起草委員会」を設置しなければならないと考えてきたのは、単なる思い込みにすぎず、明らかに国会法を読み誤るものであった。 であれば、起草委員会の設置にいつまでもこだわる必要はない。例えば、自民党の憲法改正実現本部が音頭を取って公明、維新、国民の各党、それに有志の会に呼び掛け、超党派議員による改正原案づくりを着々と進めればよい。 然して、速やかに改憲原案を作成し、次の衆議院選挙において3分の2の改憲勢力を確保するのを待って「国会による改憲発議」を行えば、憲法改正も夢ではなかろう。 そのためにも、来る参議院選挙では改憲勢力の維持は不可欠である。
【速報版】 令和7年7月14日 週刊「世界と日本」NO.2296号より
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